廃棄予定だった制服に、新たな命を吹き込む
SHIROは3月に広島ミナモア店のスタッフが着用している藍染の制服に続き、これまで店舗スタッフが着古したり、汚れたりして廃棄される予定だった制服に、天然素材で染め直すというクリエイティブを加え、世界に1枚だけの個性あふれる制服をつくる取り組みをスタートしました。
倉庫には、大量の廃棄予定の制服がありました。これらの制服を新しく生まれ変わらせるため、北海道札幌市で着物の染色、クリーニングや染み抜き、お直しなどを行っている「野口染舗」、そして天然染め「BetulaN(ベチュラン)」を運営していらっしゃる野口 繁太郎さんに、使われなくなった天然素材を使用した制服の染め直しを依頼し、世界に1枚だけの個性あふれる制服へと生まれ変わります。
着物は循環する衣服、野口さんとSHIROの共通点
着物は一度仕立てたとしても、仕立てを解けば再び一反の生地に戻ります。仕立て直したり、染め直したりして着られ続け、着物として着られなくなったあとも、雑巾として使われ、最後は燃やされて灰になり、その灰が再び染料の助剤として使われる——。最後まで大切に使い切り、さらに循環する仕組みこそが「日本人のものづくり」の原点だと野口さんはおっしゃいます。まさに、現在SHIROの活動の原点である、廃棄物ゼロを目指す取り組みとの共通点がここにありました。
また、野口さんはSHIRO PAPERを通じて、綴られていた言葉や想いに共感してくださり、さらにはSHIROが同じ北海道の砂川市でものづくりをしていることに強い親しみと誇りを感じ、ご連絡をくださったことがきっかけで今回の取り組みがスタートしました。
天然染料で着古した制服を染める、前例のない挑戦
天然染料で着古した制服を染めるのは、極めて難しい挑戦でした。
通常、BetulaNが染めるのは新品の生地。しかし今回届いた制服は、店舗スタッフが実際に着用していたもので、油染みやメイク汚れが付着していました。さらに、SHIROの制服の生地にはポリエステルが30%含まれているため、天然染料が浸透しづらいという問題もありました。そのため野口さんは当初、化学染料での染色を提案してくださったのです。しかし、「自然素材を使い切る」というSHIROの考えに共感し、難しいことを承知で天然染料での染色にチャレンジしてくださいました。野口さんは約3か月間、制服染めに専念。ドライクリーニングで油汚れを落とし、水洗いをして、タンパク質を含ませる下処理を施し、濃度を上げて染める。そして、野口染舗さんがご用意してくださった3種の素材に加え、SHIROが自然素材を蒸留する過程で生まれた副産物の白樺とヨモギの廃液を染めに用いることで、濃い色の染めが叶ったのです。これまで廃液は使い道がなく廃棄せざるを得ませんでした。しかし、野口さんはこの廃液を“宝”だとおっしゃってくださいました。視点を変えることで廃棄するものから活用するものへと一瞬で生まれ変わったのは、諦めることなく何度も何度も挑戦し続けてくださった野口さんによるものであり、私たちにとっては目から鱗の大発見でした。
7種類の天然素材で染める
今回の染色に使用したのは、7種類の天然素材です。
- ①ブドウ果皮:小樽のオサワイナリーさんのロゼワインをつくる際に出た果皮
- ②コーヒー豆:野口染舗さんのご近所にあるリトルフォートコーヒーさんの商品として販売できない規格外のコーヒー豆
- ③白樺の枝:蘭越の白樺の森を管理して、白樺樹液を使用して製品を制作しているSIRACA(シラカ)さんが、山を育てるために間伐された白樺の枝
- ④白樺の廃液:SHIROの旬シリーズ「白樺フェイスミスト 2025」に使用された、北海道雨龍林の白樺の葉を蒸留したときの廃液
- ⑤①のブドウ果皮で染めてから、⑥のヨモギの廃液で二度染め
- ⑥ヨモギの廃液:SHIROの「ヨモギ」シリーズに使用された、北海道愛別町のヨモギを蒸留したときの廃液
- ⑦③の白樺の枝で染めてから⑥のヨモギの廃液で二度染め
これらはすべて、本来廃棄されてしまう素材や、使われなくなった素材を活用しています。野口さんは「捨てられるものを、ただ、活かせるなら活かしたい。染めを通して、もう一度、息吹を吹き込みたい。」という想いから色を引き出しています。
今年オープンした渋谷PARCO店からスタート
2025年6月末にオープンした渋谷PARCO店では、このように染め直したいろんな色の制服の中から、店舗スタッフがそれぞれ自身の好きな色の制服を着用し、お客様をお迎えしています。また、他店舗においては着用テストも兼ね、まずは店長から着用。
これらの制服は、通常の制服が着られなくなってから野口染舗で染められます。そのタイミングと、野口さんが作業できるタイミング、そして染料となる廃液が揃わないと染められないため、すべての店舗スタッフの着用は徐々に行っていきます。
今後、染め上がった制服はワッペンを付けたり、パッチワークをしたりすることで、世界に1枚しかない制服に仕上げていくことも検討しています。
人の肌の色がそれぞれ違うように、染めの色は異なり、人の個性が異なるように、制服にも異なる装飾が施されていくかもしれません。
SHIROの循環への取り組み
SHIROはすべての資源の価値を見つめ直し、本質的な循環のために廃棄物ゼロを目指す「SHIRO 15年目の宣言」を2023年に表明しました。この宣言に伴い、2024年8月には、使用済みガラス容器を回収し、それらの容器を繰り返し使い続ける“リユース”のための実証試験を行いました。同時に一部対象店舗で衣類の回収も行い、社会の新しい標準を目指す取り組みを進め、現在も回収を継続的に行っています。
今回の制服の取り組みも、この循環への想いの延長線上にあります。新しくつくるのではなく、今あるものに価値を見出し、使い続ける。地球に与える負荷を最小限にするアクションをしたいという想いから、制服を染めることにチャレンジしました。
使われなくなった素材に新たな命を吹き込み、世界に1枚だけの制服として生まれ変わらせる。この取り組みを通じて、SHIROは循環する未来をつくり続けます。
PARTNER
染色を担当した野口染舗の野口 繁太郎さんは、悉皆屋(しっかいや)を営む野口染舗の5代目でもあり、北海道らしい天然染めを追求した「BetulaN」を2023年に立ち上げました。北海道の白樺の森で間伐された枝や葉が捨てられていることを知り、白樺を使った“北海道らしい染め”からスタート。今では北海道にひそむ色を探しながら、「BetulaN」で天然染めをされています。
野口 繁太郎
北海道出身。野口染舗5代目。着物業界の市場が、年々縮小していくなか「日本人と着物の間に出来てしまった距離を縮める」をコンセプトに、カジュアルキモノブランド「Shi bun no San」を立ち上げる。さらに、捨ててしまうもので染める「Re COLOR PROJECT」をスタート。2023年には、北海道らしい天然染めを追求し「BetulaN」が誕生。