
捨てない未来をつくるお店づくりで、広島だからこそ出会えた素材や風景から生まれる店舗デザイン
2025年8月からはウィンドウ越しに、路面電車を見ることができる広島駅の新駅ビルminamoa(以下「ミナモア」)とともに、「SHIRO ミナモア広島店」は2025年3月24日にグランドオープンを迎えました。
広島という地域を知るためにフィールドワークを行い、出会った素敵な素材たち。ものづくりと同じように、素材や資源を余すことなく使った設計デザイン。そしてSHIROを育ててくれた広島のお客様とともにつくった什器。
ここでしかできない、SHIROらしい新たなお店の誕生です。
「SHIRO ミナモア広島店」は、国内では2023年以来となる新規オープンの店舗です。これまで、中四国地方への出店を心待ちにしてくださっているお客様からお声をいただくことも多く、“人”と“街”を徹底的に知ることから生まれた“広島ならでは”のショッピングセンターを目指し、2019年より計画がスタートしていたミナモアでの出店を決定しました。

広島県は、広島市という大都市を囲むように海や川、山などの穏やかな自然が広がり、食や文化の豊かさから観光に訪れる方も多い土地です。市内を走る路面電車は、住んでいる人々の日常であり、観光に訪れる人々の目的にもなっています。そして、造船や自動車、電気機械の製造や、繊維産業、筆や琴といった伝統的工芸品の生産など、技術と心を受け継ぐものづくりが盛んな地域としても知られています。そんな場所で私たちは、廃棄物を出さない現在と未来を叶える、SHIROらしいお店づくりを行いました。
広島で出会った素材
~デニムづくりの過程で生まれる原綿の残渣~
店舗のデザインでまず目を引くのは、独特の凹凸がある、茶色のディスプレイ什器やレジ台です。


これらは、フィールドワークで出会ったカイハラさんからいただいた綿です。広島県福山市で1893年に創業し、現在県内に4つの生産拠点を展開するカイハラさんのデニム生地は、品質の高さから国内No.1のシェアを誇り、世界でもトップメーカーとして選ばれ続けています。そのクオリティは、紡績から整理加工までデニムづくりのすべてを社内で行っているからこそ。最も重要といわれる原料の原綿は、世界各地から仕入れを行い、高い検査基準をクリアしたものだけを使用しています。
デニムの原料となる原綿から糸をつくる過程では、綿の殻や枝の繊維、短繊維などを丁寧に取り除いていきます。除去できたものは再生綿として活用されますが、それでも異物が残ってしまい廃棄するしかない“残渣”の部分を100kgほど譲っていただき、什器の表層に使わせていただきました。

自然素材である原綿の残渣をほぐし、でんぷん糊を混ぜ合わせると粘度と重さが出てきます。これらを、お店の設計デザインをしてくださっているDRAWERSさんが、芸術大学の学生さんとともに4日間朝から夕方までかけて、お店で実際に使用する什器約25㎡すべてに手作業で貼り付けてくださったのです。
衣類などのために糸をつくる過程で生まれた残渣が、お店の一部になるとは誰も想像ができなかったこと。設計デザイナーの小倉さんをはじめとするDRAWERSさんも試作の段階で、ここまで綿の表情を活かしつつ自然素材だけで表層をつくれることに驚いたそうです。これは、その土地を調べ、今あるものの魅力を引き出しながら活用することを考える、SHIROのお店づくりだからこそできた発見だと感じています。
そして、今ある資源の魅力を残したままリデザインするお店づくりを、広島に住んでいるお客様にも体験していただきました。
広島で出会った素材
~非日常な空間で、みんなとつくり上げる~
2025年3月、オープン前のミナモア広島店にお客様をご招待し、ワークショップを開催しました。お店づくりにおけるワークショップを行うのは、ルミネエスト新宿店に続き2回目です。今回も約100件のご応募をいただき、これまでSHIROを育ててくださった12名のお客様にご参加いただきました。
開業前のミナモアに入ると、目の前に工事中の路面電車の線路が現れました。参加してくれた小学生の男の子が、線路を見た瞬間に足を止めて、目を輝かせた姿が忘れられません。施設内もたくさんのブランドがオープンに向けての準備をしていて、SHIROも製品が並ぶ前の状態で皆様をお迎えしました。SHIROのスタッフも、新規オープンやリニューアルオープン前のお店は見てきましたが、駅ビルなどの施設がオープンする前の姿を、日常の中で見る機会は滅多にありません。お客様にとっては、もっと非日常の世界でしょう。普段見ることのない景色や空間の中でものづくりをする体験は、SHIROのワークショップならではかもしれません。
いよいよお客様を交えて、DRAWERSの小倉さんと加納さん、SHIROのスタッフ、カイハラさんと一緒にワークショップを行っていきます。まずは、使用する綿の残渣について、デニムをつくる工程でどのようにして生まれるのか、普段は家畜の寝床以外の活用法がないこと、だからこそSHIROはお店づくりに使うことなどを、素材に直接触れながら知っていただきました。

そこから、大人も子どもも一緒に、泥遊びのような感覚でほぐした残渣とでんぷん糊を混ぜていきました。準備ができたら、粘度のある残渣を什器の扉や側面に押し付け、隙間をつくらないように貼っていきます。均一の高さになるように丁寧に貼る方や、あえて凹凸をつくるように残渣を重ねる方、オープンしたときに自分がつくった扉だと分かるようにちょっとしたサインを残す方、残渣だからこそ混ざっている綿の殻を活かしてデザインする方など、それぞれの個性が光ります。
貼り付けている最中も、県外に遊びに行ったときにSHIROの店舗で買い物をした話や、好きな製品について、北海道にあるみんなの工場やMAISON SHIROに訪れた感想、TABI SHIROやインスタライブの好きな回の話など、“SHIRO”という共通の話題を通して、笑い声の絶えない時間を過ごしました。

その後の内覧会やプレオープンには、ワークショップに参加してくださったお客様も駆けつけてくださいました。ご自身でつくった什器の扉を見つけて写真を撮ったり、一緒に参加したお客様と偶然会ってお話をされる場面も目にしました。このような瞬間を積み重ねることで、ミナモア広島店がお客様にとって、思い入れのある場所になってくれたら嬉しいです。
広島で出会った素材
~ホーリーバジルで空間を彩る~
原綿を使った什器の奥には、ベージュカラーの漆喰を塗った、やわらかく明るい印象の壁面があります。棚に並ぶ製品が映えるこの色合いは、ホーリーバジルという植物から生まれたもの。

SHIROから毎年秋に登場する、限定スキンケアの旬シリーズ『ホーリーバジルオイルインウォーター』は、農薬を使わず無化学肥料で、誰もが笑顔になれる野菜づくりをされている、広島県東広島市のひなた農園さんが育てたホーリーバジルを使っています。昨年、ホーリーバジルを蒸留した際に残った廃液を捨てず、何かに使えないかと考えていました。そして今回、漆喰に混ぜるというアイデアを思いつき、お店の壁が淡く美しいベージュに仕上がりました。

棚に並ぶ『ホーリーバジルオイルインウォーター』が、このベージュの壁面の前では、ひときわ凛として見えるような気がします。店内全体がやさしい光で包まれる空間は、ひなた農園さんが愛情をたっぷり注いで育てた、植物の恵みによってつくることができました。私たちの大好きな生産者さんと、素材から生まれたお店づくりです。
広島で出会った素材
~地域の土と気候と、想いで染め上げる制服~
広島らしい景観と、素材でつくった店舗では、藍色の制服を着たスタッフがお客様をお迎えします。

これは全国の直営店舗共通で着用している制服を、藍染したものです。接客をする中で付着してしまうメイクアップ製品のカラーなどの汚れは、洗濯をしても落としきれないことがほとんどです。それらの制服を、広島県福山市で“天然灰汁発酵建て”による藍染を行っている、藍屋テロワールさんに染めていただきました。染料となる藍を育てるために、土づくりから行っている藍屋テロワールさんは、この土地だからこそ表現できる「藍色」をつくっています。

元々明るいブルーだった制服は、上品で落ち着きのある藍色に仕上がりました。白いボタンもほんのり染まり、薄い紺色に。糸は元の色を残し、藍色の布に明るいブルーのステッチが浮かび上がります。そして、ほんのり色ムラがあるのも味わいのひとつです。
布をリサイクルして新しい衣類をつくるのではなく、藍染という昔からある技法を用いてリユースする。SHIROらしいミナモア広島店だけの制服で、今日も製品をご案内しています。

SHIROが広島にお店をつくることで、これから先、少しずつ変わっていくことがあるかもしれません。SHIROの製品が広島に暮らす皆様の日常の一部になったり、SHIROのものづくりやお店づくり、取り組みに共感する人の輪が広がったり。はたまた、誰かの考え方や選択が変わり、世の中を良くすることに繋がるかもしれない―― もしそんな風に変化する未来が待っていたら、ワクワクしませんか。
中四国エリアにお住まいの方はもちろん、広島に遊びに来られた際はぜひ、SHIRO ミナモア広島店にもお越しください。
PARTNERS

小倉 寛之 / DRAWERS
設計を担当したDRAWERS の小倉 寛之さんは、空間デザインにおいて美しさや利便性を追求すると同時に『つくる責任』を意識し、未来を考えたプロダクトデザインやクリエイションを行っています。
また小倉さんは、2024年4月にオープンした北海道夕張郡長沼町の一棟貸し宿泊施設「MAISON SHIRO(メゾンシロ)」の設計や、シロの東京オフィスの設計も担当しています。