捨てられるはずだった衣類が新しい素材へ生まれ変わる、“再生フェルト”が見せる表情に心はずむチャーミングな空間

2025年6月、多様なカルチャーが行き交う渋谷PARCOの1階に、「SHIRO 渋谷PARCO店」がオープンしました。渋谷PARCOの出入り口近くに位置するこのお店づくりは、アイボリーを基調とした、シンプルでやわらかな印象の空間となっています。SHIROのお店は、すべての内装やレイアウトが異なります。それは、そのとき、その場所ごとに、SHIROの「今」の考えや想いをお店づくりに注ぎ込んでいるから。どんな素材を使い、どんな工夫をこらして空間をつくりあげていくか、毎回試行錯誤しています。そのため、ひとつひとつのお店に物語があるのです。

「SHIRO 渋谷PARCO店」のお店づくりの中心となったのは、“再生フェルト”です。華やかなファッショントレンドにあふれた街、渋谷で、SHIROは「衣類の本質的な循環」に着目したお店づくりに挑戦しました。

「衣類の循環」への想いがこめられた“再生フェルト”

店づくりに使われた素材 再生フェルト

SHIROは、「捨てない、新たにつくり出さない」ことを重視したものづくりをしています。捨てられてしまうはずだったものや、余っているものに価値を見出し、そこにクリエイティブを加えることで、最大限に魅力を引き出す。この考えは、製品はもちろん、お店づくりでも同じです。素材の良さ、つくり手の想いを汲み取り、空間へと昇華します。今回、「SHIRO 渋谷PARCO店」のお店づくりに使われた素材は“再生フェルト”です。これは、本来捨てられ、燃やされるはずだった衣類からつくられた布です。“再生フェルト”を使うことになったきっかけは、お店の設計デザインを担当してくださっているDRAWERSの小倉さんが、大阪にある東谷商店さんという会社と出会ったことでした。東谷商店さんは、大阪で60年以上、衣類の回収と再利用に取り組まれてきた会社です。

衣類の再利用というと、リサイクルやリユースを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。私たちも昨年からリユースプロジェクトをスタートさせたように、昨今では、衣類を回収する取り組みが増えました。しかし、衣類の再利用は、実は簡単なことではありません。
まず、リサイクルできるものは、単一素材(モノマテリアル)である必要があります。衣類の多くは綿やポリエステルなど、複数の素材でできていることが多く、リサイクルに回すことができません。布地は単一素材でも、ボタンやジッパーが別の素材であれば、それを取り外す手間もかかります。また、回収された衣類の中で、リユースできるものも限られているのが現状です。大抵の衣類は破れたり汚れたりしてしまっていて、リユースには適さないのです。では、リサイクルもリユースもできない衣類はどうなるのか――それらはサーマルリサイクル、つまり燃料として使用するしかありません。燃やすということは、二酸化炭素や有害物質が排出され、地球温暖化と大気汚染を引き起こします。東谷商店さんは、そんなリサイクルやリユースに適さない雑多衣類の再利用に取り組まれています。雑多衣類を色ごとに選別してから、繊維状にほぐして綿状にし、それらを使って“再生フェルト”をつくられてきました。“再生フェルト”は新たに染色せず、衣類そのものの色が活かされているのが特長です。捨てられた後、燃やされるはずだった衣類は、実は魅力にあふれていた――“再生フェルト”の存在は、まさにそのことに気づかされるものでした。

小倉さんは、東谷商店さんの工夫や衣類の再利用に対する考えに触れ、“再生フェルト”を「SHIRO 渋谷PARCO店」のお店づくりに使うことを提案してくださいました。

ひとつの素材がさまざまな形になってお店を彩る

「SHIRO 渋谷PARCO店」に使われている“再生フェルト”は、アイボリーに、衣類本来の色がカラフルなネップ(小さな繊維の節)となって愛らしい表情を生み出します。雑多衣類の色選別や綿状にほぐす作業など、“再生フェルト”をつくるまでには多くの手間と時間がかかります。新しい生地をつくったほうが、よほど早くすむかもしれません。しかし、素材の魅力を活かすため、手間をかけ想いを込めて誕生した“再生フェルト”にこそ、社会課題を解決するためのヒントがあると考えました。

想いを込めて生み出された 再生フェルト
店頭にある什器

また、お店づくりにあたって、“再生フェルト”がさまざまな形で使われているのも特徴です。例えば、店頭にある什器には、フェルトがドラム状に丸められたものがそのまま使われています。丸太のようなフェルトは、生地がつくられる過程を想像させるような、ユニークな見た目になっています。

SHIROのロゴを型抜きや型押し、ステッチなどを施した試行錯誤の様子

そして、壁面に施された、タイル状の“再生フェルト”。これは、製品の試作過程で生まれたものです。実はお店づくりのためにつくった“再生フェルト”が必要以上に余ってしまうことが分かりました。そのためそれらを再び利用し、製品化することに挑戦したのです。長方形にかたち取った上にSHIROのロゴを型抜きしたり、型押ししたり。さらにはステッチを施したりと試行錯誤の様子を表現しています。残念ながら、“再生フェルト”の製品化は難しいことが分かり、今回は見送ることになりましたが、SHIROのブランドロゴをあしらった“再生フェルト”は、お店の出入り口でお客様をお迎えしたりお見送りしたりして、見守ってくれているかのようです。このように、“再生フェルト”のさまざまな使用方法を考え、お店づくりに活かすことで、シンプルながらも遊び心あふれる空間が生まれたのです。

製品も、お店も、制服も、SHIROの想いを込めて

「SHIRO 渋谷PARCO店」のスタッフの制服

また、「SHIRO 渋谷PARCO店」のスタッフの制服には、新たな試みに挑戦しています。それは制服のリユースです。今回、北海道札幌市で1947年に創業し、着物のメンテナンスなどをおこなう悉皆屋(しっかいや)を営む野口染舗さんに、汚れてしまった既存の制服を捨てるのではなく、再び蘇らせられないか?という相談をしたところ、天然素材で染められ新たな色合いへと生まれ変わった制服が出来上がりました。天然素材による草木染めは素材や染料がその時々で異なるため、同じ色で染まった制服は一枚たりともありませんが、逆にそれが自然を表現する豊かな個性になり、制服を着るスタッフの個性までも表現しているようです。

“再生フェルト”と同じように、草木染めの素材には、白樺の間伐材やワイン製造で残るぶどうの皮、規格外のコーヒー豆といった本来は廃棄される予定だったものを使っています。リユースされた制服も、SHIROの「捨てない、新たにつくり出さない」取り組みから生まれたものです。今後は「SHIRO 渋谷PARCO店」だけでなく、全国のお店のスタッフがこの制服を着用できるようSHIROの素材で野口染舗さんに染め直しをしていただいています。制服のリユースや野口染舗さんとの出会いにまつわる物語は、また改めてご紹介しますね。

「SHIRO 渋谷PARCO店」

お店は、お客様とSHIROの製品が出会う大切な場所です。その場所をつくる過程で、さまざまな人や素材と出会い、かけがえのない大切な空間が生まれます。ぜひ「SHIRO 渋谷PARCO店」にお越しになった際は、“再生フェルト”が彩るチャーミングな空間で、SHIROの製品と一緒に心はずむひとときをお過ごしいただければ嬉しいです。

PARTNERS

小倉 寛之 / DRAWERS

小倉 寛之 / DRAWERS

設計を担当したDRAWERS の小倉 寛之さんは、空間デザインにおいて美しさや利便性を追求すると同時に『つくる責任』を意識し、未来を考えたプロダクトデザインやクリエイションを行っています。
また小倉さんは、2024年4月にオープンした北海道夕張郡長沼町の一棟貸し宿泊施設「MAISON SHIRO(メゾンシロ)」の設計や、シロの東京オフィスの設計も担当しています。